何の脈絡も無く、私は犬の話をします。
今は亡き、パルのこと。
もう、パルが死んで何年たっただろう。
命日は覚えているのに、何年たった、という経過した年数を数える方法は、私の歳を重ねるごとにどんどん薄くなっていく。
触り心地をまだ覚えていて、
においもまだ覚えていて、
声もまだ覚えている
最近、歳をとった愛犬の身体の具合の悪いという話が、身の回りで何回か話題にあがった。
違う人と、違う場面で。
こういうとき、ああ、何かの啓示なのかな、とか思って、素直に従う様にしている。
だから、フィルムカメラで納めたパルの晩年の姿を、スキャンすることにした。
やっぱり
何年たっても
パルの顔をみると泣いてしまう。
やあ、懐かしい顔に会えたね、
とおもったら、もう涙がこぼれ落ちてきた。
犬はしゃべらないし
犬はわがままだし
犬と上辺での会話はできないし
犬に見返りを求めて愛を与えることは、できない
だから、パルを中心とした、無償の愛、というものが私の家族の間にあったと思う。
もう立つことも上手く出来ないパルがいて、
そこからいつも見え隠れする 死 のにおいがあって、
身体の痛みを聞いてやることも、和らげてやることもできない私たちがいて、
どうしようも出来ない近い未来の 死 を全員で想いながら、
残り少ないパルの存在する時間の中、
ただもう、愛という感情で、パルを見つめていた
そんな時間があった。
だから、
この作品のタイトルは、これ以外に考えることができなかった。
2012年制作 「あい」
今は無い、あのおうちと、パルに
[3回]
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